【怪談】「化け猫」

怪奇幽玄亭

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381 回視聴・ 16いいね・ 2025/02/25

【怪談】「化け猫」

語り手:立川かしめ　@tatekawakim
監修:ナツノカモ　@natsunokamo

『化け猫』

「いやぁ、江戸の町はいつ来ても賑やかだな。屋台の匂い、町人たちの笑い声……こんな場所に住める俺は幸せ者だ。でも、最近ちょっと気になることがあるんだよなぁ。隣に住んでる娘さん、お菊さん。町中の評判だ。町人たちは皆、『お菊さんみたいな娘が嫁に来たらなぁ』なんて夢を見てる。だけど、どこか儚げでな……まるで風に消えそうな感じで。ちょっと変わったところがある。あの家には猫がたくさんいる。しかも、どの猫も妙に人懐っこい。俺が通ると、猫たちがずらっと並んでこっちを見てくる。正直言って気味が悪いくらいだ」

「お菊さん。こんちは」
「あら。新八さん。いつも魚を分けてくださってありがとうございます。猫たちも喜んでいますわ」
「いやいや、ついでですよ。猫たち、随分と可愛がってるんですね。」
「ええ。でも……あの、新八さん。あまり近くには来ないでください。」
「えっ？どうしてです？」
「私に近づくと、不幸になりますから……。」
「不幸！？そんなこと言われたら気になるじゃないですか」

（夜）
「昼間のお菊さんのあの言葉は、一体なんだったんだろう。ん？外から物音が聞こえる。なんだ？（戸を開ける）え？　……お菊さんが怪しげな男に連れ去られてる！おい！待て！」

「…くそ、見失った。けど、あの男……岩蔵だ！町の悪党で、金に目がくらんだら何でもするような奴だ。だけど、どうしてお菊さんがあんな奴に連れて行かれるんだ？訳が分からない……。」

翌朝、新八が寺の境内を歩いておりますと

「お菊さん！　お菊さん！　どうしてこんなところに倒れているんだ。お菊さん。え、猫？　お菊さんが猫の姿に！？」
「私は……化け猫だ」
「化け猫！？お菊さん、あんたが……猫だったのか！？」
「そう……私は人間に恨みを抱えた化け猫だ。だけど、静かに暮らしたかった。この町で、人間の姿になってお菊として生きていた……」
「じゃあ、どうして岩蔵なんかに連れ去られたんだ！」
「あの男は私の正体を知っていた。猫たちが集まる姿を見て、不自然だと思ったのだ。そして、私を捕まえて見世物にしようとした……」
「見世物！？そりゃ酷い話だ！お前にそんなことをするなんて……！」
「人間は怖い……私はただ静かに生きたかっただけなのに。」

その日の夜、

「おい、聞いたかい。岩蔵の家から悲鳴が聞こえたと思ったら……猫たちが家中を襲ったって話だ。岩蔵は怯えた顔で、どこかへ逃げたらしい」

「お菊さん、岩蔵はもうこの町にはいないようだ。これで…」
「私は……もうこの町にいられない」
「どうして！？岩蔵を追い払ったんだろう？お前がいなくなる必要なんてない！」
「私は人間の姿をしても、結局は化け猫……人間と共に生きることはできない」
「お菊さん！いや、猫でもいい！お前と一緒に……！」
「ありがとう……でも、さようなら」

猫たちは夜の闇に消えていった。それ以来、お菊さんも猫たちも姿を見せることはなかったそうで。
もし夜道で猫を見かけたら、優しく声をかけてやりましょう。もしかしたら、その猫は人間の姿に戻れないだけかもしれません……。

（終）